帰納と演繹――フレーゲからラッセル、ヴィトゲンシュタインへ【その1.5】
ばじるちゃん「フレーゲからラッセルへ行く前に、【帰納】と【演繹】について話しておくことにするわ」
ゆるふわ先生「おお、なんか難しい単語が出てきた」
ばじるちゃん「確かに難しい単語だけど、所詮は2文字程度の情報量よ。『公園』に『公園』以上の情報量がないようにね」
ゆるふわ先生「てことは、1行ぐらいで定義できると」
ばじるちゃん「そ。まあ分かりやすくするために、少し冗長に話すけれど」
ゆるふわ先生「分かりやすいようにお願いします」
ばじるちゃん「最初に定義から述べておきましょうか。まず帰納は『個別的・特殊的な事例から一般的・普遍的な規則・法則を見出そうとする論理的推論の方法』と定義される」
ゆるふわ先生「うわあもう無理だ」
ばじるちゃん「抽象的な概念は、どうしても定義も抽象的になっちゃうからね。具体的に言うと……例えば、ノコッチが珍しく勉強してたとするじゃない」
ゆるふわ先生「珍しく勉強してた」
ばじるちゃん「英語の勉強をしてたとしましょう。すると、一気に成績が伸びる勉強法を思いついてしまった」
ゆるふわ先生「7回読みのことかな?確かにあれのお陰でかなり成績上がったけど」
ばじるちゃん「東大主席弁護士がプッシュしてたらしいけれど、あれそんなに良かったの?まあいいや。で、それで成績が上がったら、勉強法を他の科目にも適用しようとするでしょう」
ゆるふわ先生「そりゃ当然他の科目にも試してみたよ」
ばじるちゃん「このときの『英語という個別の科目で思いついた勉強法を、他の科目にも当てはまる一般的な法則として適用しようとする』、これが帰納よ」
ゆるふわ先生「ああ、それで『個別的な事例から一般的な法則を見出す』か。なるほど」
ばじるちゃん「次に演繹ね。これは帰納とは対の概念になるわ。『一般的・普遍的な前提から、より個別的・特殊的な結論を得る論理的推論の方法』。ほら、定義も帰納とは逆でしょ?」
ゆるふわ先生「うむ、でも対と言われてもやっぱり定義だけじゃ分からん。具体例がほしい」
ばじるちゃん「帰納から演繹は導かれるのよ。さっきの例だと、英語での勉強法が帰納的に他の科目にも試されるようになったじゃない」
ゆるふわ先生「試されるようになったね」
ばじるちゃん「このとき、この勉強法は……ノコッチのやり方で言えば『7回読みが一般的な勉強法として他の科目にも試される』、つまり演繹的になされるの」
ゆるふわ先生「『一般的な前提を個別に試してみる』ことね。ちょっとややこしいけどなんとなく分かった」
ばじるちゃん「本当に?じゃあ問題です。『カラスは黒い』という前提から他のカラスを個別に調べていくのは、帰納と演繹どっち?」
ゆるふわ先生「演繹だよね。『カラスは黒い』っていう一般的な前提から個別のカラスについて見ていってるし」
ばじるちゃん「流石に簡単すぎたかな。正解。この場合だと、逆に個々のカラスを調べていって『カラスは黒い』という結論を導出しようとするのが帰納にあたるわ」
ゆるふわ先生「でもカラスって白いのとかもいるよね」
ばじるちゃん「そうね。ちなみにこのカラスは【ヘンペルのカラス】を意識してるんだけれど……いい機会だからこっちも説明しておこうかな」
ゆるふわ先生「ヘンペルのカラスってなんか強そう。アルトリウスの墓を護る大狼シフに似たものを感じる」
ばじるちゃん「何それ」
ゆるふわ先生「ダークソウルってゲームに出てくるめっちゃ巨大な狼」
ばじるちゃん「ふーん。全然違うけれどね」
ゆるふわ先生「違うのか」
ばじるちゃん「ヘンペルのカラスは帰納法の問題点を明らかにしたことで知られているわ。『全てのカラスは黒い』ことを証明したいとしましょう」
ゆるふわ先生「白いカラスは」
ばじるちゃん「今は無視。それで、どうやったら証明できると思う?」
ゆるふわ先生「どうすりゃ出来るかなあ。うーん……1匹ずつ調べるのは面倒くさいし。……分からん。お手上げ」
ばじるちゃん「ほら、証明って聞くと数学Ⅰを思い出さない?命題の逆、裏、対偶」
ゆるふわ先生「あーあの凄い苦手だったやつだ」
ばじるちゃん「私もあれニガテ……。でも習ったわよね。対偶の真偽は元の命題の真偽と等しいって」
ゆるふわ先生「あっそうか。じゃあこの場合だと『全てのカラスは黒い』の対偶を調べればいいのか。『黒くないものはカラスでない』?」
ばじるちゃん「そういうことになるわね」
ゆるふわ先生「いやちょっと待って。こんなの対偶取ったところで調べれそうにないんだけど。なんだよ黒くないものはカラスでないって。どうやって調べるんだよ」
ばじるちゃん「確かに調査方法については色々思うところがあるでしょうけれど……それについては今は問題視されないわ。最初の『全てのカラスは黒い』に関しては、メンドくさいにしても、世界中に存在してる全てのカラスを調べることが出来れば、一応はハッキリするじゃない」
ゆるふわ先生「まあ全部調べたらそうなるだろうね。そして白いのが出てくる」
ばじるちゃん「いつまでアルビノ種の話引きずってんのよ……。だけど一方で、これの対偶『黒くないものはカラスでない』を調べようと思ったら、世界中に存在する全ての黒くないものを調べる必要がある」
ゆるふわ先生「うん。……うん?でもまあ、カラスを全部調べれるって前提があるなら、黒くないものを全部調べることができてもおかしくないよね」
ばじるちゃん「そうね。おかしくないと思うわ」
ゆるふわ先生「じゃあいいんじゃないの?黒くないものを全部調べれるわけなんだし」
ばじるちゃん「ハァー、浅はかね」
ゆるふわ先生「出た。浅はか」
ばじるちゃん「じゃあ仮にリンゴとかバナナとか、全ての黒くないものを調べたとして、そこにカラスが1羽もなかったとしましょう」
ゆるふわ先生「うん」
ばじるちゃん「そうしたら、結論として『全ての黒くないものを調べたがカラスはいなかった。つまりカラスは黒い』ということになるわけだけれど、そもそも変だと思わないの?だってカラスは1羽も調べられてないのに、カラスについての結論が出てしまうのよ」
ゆるふわ先生「うーんまあ確かにそれは違和感ある……。けど、間違ってはないような気もする。だってカラス以外の黒くないものが全部調べられたんだったら、もうカラスは黒いって結論づけるしかないじゃん」
ばじるちゃん「そうね。この対偶論法は確かにノコッチの言う通り、論理的には全く問題がない。でも、だからこそ問題が生じるの。パラドキシカルだけれどね」
ゆるふわ先生「問題って?」
ばじるちゃん「例えば、ノコッチは神であるとしましょう」
ゆるふわ先生「僕は神であるとする」
ばじるちゃん「これをさっきの対偶論法に当てはめると『神でないものはノコッチでない』ということになる。で、ノコッチ以外の全てのものを調べたとして、そこに神がいなかったとしましょう」
ゆるふわ先生「……おお。この理屈だと僕は神ということになる」
ばじるちゃん「ね、変でしょ」
ゆるふわ先生「変だ」
ばじるちゃん「これがヘンペルのカラスよ。それにしても、フレーゲ、ラッセル、ヴィトゲンシュタインとは余り関係のないところまで来ちゃったわね……」
ゆるふわ先生「関係ないのかww まあ僕はおおってなったし別にいいんじゃね」
ばじるちゃん「いいのかな……。まあ、この帰納や演繹が数学にどう絡んでくるかも含めて、次に回すことにするわ」